アンディ・チェン法律事務所が2026年5月7日付で公開しているレポートです。
香港の謝罪条例(Apology Ordinance)
2017年7月13日、香港立法会にて、“謝罪条例”という法律が可決され、正式に香港の法律となりました。イギリス、アメリカ、オーストラリアの国においては似ている法律がありますが、このような法律はアジア地域では初めてです。
なぜ謝罪条例ができたのか?
『すみません。』という言葉は世の中の争いを解決する有効な方法と香港政府は考えています。
法律の面からみると、今まで、民事訴訟において、訴訟相手の謝りそのものが、事実とみなされ、法律責任を証明するために使える証拠となっていました。そのため、法律の責任を避けるために、今まではほとんどの争いで悪い方が相手に謝罪することを、避け、拒否しているのが現状です。
自分の謝罪が事実認定とされたくないだけではなく、謝罪というのは訴訟を起こせる時効に大きな影響を与えています。簡単に言うと、民事訴訟の時効(例えば債権回収)は、6年間、個人傷害に関する訴訟の時効は3年間です。例えば、時効が6年間ある場合、事件から2年経過した段階で、謝罪を行った場合は、時効がまた0からスタートとなり合計8年間となる恐れがあります。
さらに、多くの保険契約の条件として、ミスを認める事や謝罪は禁止されており、争い同士の謝罪により、保険でカバーされなくなってしまう恐れがある理由で、謝罪という行動が控えられています。
条例による、謝罪の効果
香港では、訴訟という争いの解決手段は時間と費用がかなりかかります。できれば、訴訟は他の選択肢がない時の、最後の手段です。政府(司法機関)にとって、訴訟案件が多すぎて、処理できないくらいの仕事量である状況から、近年は、積極的に訴訟以外の解決方法を導入しています。例えば2009年の司法改革により、強制調停(Mediation)が導入されました。現在、一部の訴訟、特に人身傷害、名誉傷害や小さな契約違反などの争いは感情的な部分が多いと政府は考えています。条例を通じて、加害者から被害者への謝罪を促進させ、訴訟の数(つまり裁判所の仕事量)を減らす事を図っています。
謝罪の法的定義
法的定義では、“謝罪”とは、以下の通りです。
(1)ある人からある事件に対する謝罪とは、その人や事件に対して自ら現れた後悔、同情または善意である。例えば、“すみません”は、後悔、同情、善意を表す一つの表現である。
(2)謝罪の表現は、口頭、書面、行動のいずれか。
(3)謝罪は以下の事を含める。
(あ)ある事件に対して自分の過失・責任を直接・間接的に認める事
(い)ある事件に対して事実関係を述べる
(あ)と(い)も謝罪の一部となります。
(4)謝罪は、本人から、あるいは、自分の代表(他人)からできる。
条例の趣旨
-適応される訴訟*1においては、過失、責任、争点を判断する証拠として謝罪自体を証拠として受け入れないものとする。
-謝罪自体は時効を左右しない。(つまり、謝罪をした時点から時効をカウントし始めない。)
-謝罪自体は保険契約、保険カバーの有効性に影響しない。(謝罪をしても、保険契約は引き続き有効でカバーされる。)
*1条例の適応訴訟とは、(民事・非刑事)の裁判、仲裁、行政処置、規律処置、規制処置に関するヒアリングである。
*2非適応訴訟
— 刑事の裁判やヒアリング
— 猥褻出版物に関するヒアリング
— 検死に関するヒアリング
— 調査委員会(つまり公衆に関する重大事件のヒアリング)
刑事起訴の目的は、犯罪を防ぐためであるため、謝罪条例は適応されない。また、猥褻出版物、検死、公衆ヒアリングの目的は真相や事実関係を究明する目的であるため、今回の条例の対象外となる。
今までもクライアントから、『先方からの謝罪が欲しい。』という要望は何度もありましたが、なかなか難しい状況がありました。今後は、このアジア初の謝罪条例によりどう変化していくか、個人的にも興味があります。
法律ができてから9年が経ちました。過ちをおかした時や日本の政府機関との関係や親会社の意向で、謝罪をせざるを得ない日系企業の方は、この条例の活用を考えても良いかもしれません。ただし、実際に謝罪する前に弁護士によく相談の上で、行ったほうが良いでしょう。
こちらのコラムはアンディ・チェン法律事務所のホームページにも掲載されております。